生音魂のHOPE!<92>2010.11.1.盛岡タイムス

 アコースティック・ギター(簡単に言えば、フォークギターの音を、エレキ用のマイクで拾い、アンプで増幅する半ナマ音が魅力のギター)は、近年、アコースティックというジャンルを確立した。フォークギターが進化した音とも言え、歌い手の大半は弾き語りをする唄伴用として用いている。

 そのフォーク用スチール弦のソリッドな響を生かし、フィンガー奏法で様々なポップ音楽を演奏する、アコースティック・ギター奏者・葛巻秀和さん(37才)の成長ぶりに僕は、最近心を奪われそうになる。

 サイモンとガーファンクルが唄無しで演奏し、多くのギター奏者にあこがれられた曲「Anji」を、ステージの一曲目に必ず持って来る彼は、その曲で自分に「アンジ」をかけるのか、次々と難しい曲を難なく弾きこなしてゆく。勿論、譜面は一切見ないのだ。

 演奏中は、めったにしゃべらない。その代り、曲名は自分で墨書きした紙を、譜面台に乗せて客席に向けて置く、というアイディア。「楽譜は僕にとって何の意味も無い。何回も何回も繰り返し繰り返し、ただひたすら指が覚えてくれるのを待つだけの練習方法」なのだという。

 ブルージィーな曲も好きだが、ベースラインがしっかりとしたアップテンポな曲「アコースティック・スピリッツ」が、はまり曲なのだとも。確かに彼の名刺には「生音魂」ととある。「追い風」「ロング・サマー・デイ」「アロマ」などの自作曲も素晴らしいと、聴いた人達が言う。

 そして10年の夏から、あの曲「HOPE」(ジャズピアニスト・穐吉敏子さん作曲)を取り上げて演奏する様になったのです。なんという嬉しさだろう。僕はいつもこの曲だけは特別な想いで聴く性もあり、必ず、ジーンとなるのだ。以来、ステージが終わっても、つい、「HOPE」を「希望」するアンコールをしてしまう。

 「この曲を演奏していると、暗い中にも一筋の光が差してきて、それが段々と大きくなってくる様な気がするんです。それが希望なのかな、と思いますね。ですから指が勝手に動いてくれるのを祈りながら演奏している」のだとも。