信じて最善を尽くす<37>2009.9.28.盛岡タイムス

 穐吉敏子ジャズ・オーケストラ結成30周年にして、最後の日本ツアーとなった03年5月。盛岡公演は、存続か、とり壊しかで揺れていた、岩手県公会堂での公演。公会堂としても、久々のビッグネーム・コンサートとして新聞は各社が大々的に取り上げてくれた。

  穐吉さんも実に40年ぶり、と同ホールの演奏会を大変喜んでくれて、穐吉さんの年齢と同じ築年の同ホールのことも、ヨーロッパのように大切にしてほしいとの意見から保存決定。

  そのコンサートの主催者であったぼくは、あちこちに、前売り券を頼んで歩いたものでしたが、紫波町高水寺にある、いきつけの名曲喫茶「これくしょん」にも10枚お願いしたところ、定休日すら作らず毎日店を開いているマスター、小畑倉治さん(75)は、何と、店を休んで自分の古い友人たちを訪ね歩き、チケットを売ってくれていたのでした。

  そのことを知らせてくれたのは、マスターの友人である小瀬川さんという、かつてジャズ喫茶を岩手でいち早く始めた方でした。

  その時のことを小畑さんは、チケットを見たとき、これまでの見晴らしのいい道ではなく、谷へ下りてゆくいばらの道を歩いてみませんかということだと思い、頼んだ相手と同じ気持ちで歩いてみようと、思ったのだという。

  「古い友人たちが、1枚のチケットを引き受けてくれるのは、わたしにとって、大きな喜びでしたし、わたしも最善を尽くして聴かなければならないと思ったからです。それは、照井(ジョニー)さんが、穐吉さんを信じきっておられるわけだから、わたしは照井さんを信じて聴きに行く!そのことなのですよ」

  「正直2~3度目までは、またかと思いました。ところが今は違うんですよ。出会いの連鎖で自分が変わった。また開いて下さるのですね。と、穐吉さんの音楽性と崇高な理念に大きく引っ張られているだなと、思います。西洋音楽はキリスト教が元になっているが、穐吉さんのジャズは、東洋的仏教的思想を背景にした音楽の魅力」なのだとも。だから気持ちはいつもすすんで聴きに行く方を選ぶ!と。