ゴールド・ディスク事典<79>2010.7.19.盛岡タイムス

 85年5月に臨時増刊された、スイングジャーナル社発行のゴールド・ディスク事典。この本は一口で言えば、ジャズレコード史に残る名盤事典。かつて同SJ誌の編集長だった児山紀芳氏が、67年に、同ポスト着任と同時に打ち出した企画「スイングジャーナル選定・ゴールド・ディスク」(名盤中の名盤)を一冊にまとめたもの。

 載っているのはジャズピアノ不滅の55作。AtoZジャズの魅力を伝える153作の計208作品。この内日本人が演奏している作品は9作で、ピアノは秋吉敏子の「ザ・トシコ・トリオ」。と佐藤允彦の「パラジウム」の2作。

 AtoZでは「日野(皓正)~菊地(雅章)クインテット」。宮沢昭の「山女魚」。鈴木勲の「ブローアップ」。渡辺貞夫の「渡辺貞夫」と「アイム・オールド・ファッション」の5作に、歴史的なセッションを収めた「幻のモカンボセッション54」。「銀巴里セッション」(63年)。

 「ザ・トシコ・トリオ」はサイドメンのベースにポール・チェンバース。ドラムにエド・シグペンといった一流処と、56年にニューヨークで録音したアルバム。タバコを手にして考える若き日のトシコのワンシーン写真ジャケットは、演奏もさることながらに、未だに人気がある名盤なのだ。

 この事典を発行するにあたって、日本盤6作と、モンク。ミンガス。ヘイデン。ペッパー。の計10作品の解説文依頼が舞い込んで、ビックリした記憶が甦る。少し読み返して見たら、殆んどすべてダジャレ解説で、名盤を何と心得る!と、お叱りを頂くような文に、今更ながら呆れ果てた。

 特にも秋吉敏子トリオの解説では「エド(江戸)のど真ん中に高くポールを立てて、横書きで“TOSHIKO”と染め抜かれた旗がハタメキ、幕府の連中が“あれは何だ!あのざわめきは何事だ!”と慌てふためいたであろうと言う様な空想の世界を、録音当時の日本ジャズ界に置き換えてみると、何となくピッタリと収まる。なんと情けない貧弱な日本の状況であった事か、悔しさで一杯になる」と僕は少し皮肉って書いていた。