シックレディの抽象画と肖像画<82>2010.8.8.盛岡タイムス

 「シック・レディ」というCDがある。穐吉敏子さんが、91年11月、ニューヨークにてセプテット(7人編成)で録音し、スイングジャーナル誌が、ゴールドディスクに選定したジャズの傑作盤。

 このCDを、当時の「ジャズ喫茶ジョニー」で聴き、深く感銘を受けた、陸前高田の画家・佐藤浩樹さん(29歳)は、93年6月22日の盛岡。23日の陸前高田。と、岩手県内で僕が主催する公演「TOSHIKO・AKIYOSHI・JAZZ・QUARTET」コンサートの、ステージ・バックスクリーンを絵にすることを提案し、自らかって出たのだった。

 彼は高田高校時代に絵で頭角を現し、卒後は新制作の行木正義画伯に師事。哲学のない絵を描いては駄目との思いから、ドイツへ渡り、ベルリン造形大に学び、二次元の絵と三次元の彫刻の間を埋める立体的手法の可能性を追求し、身に付け、帰国した若者だった。

 その作品たるや。ベニヤ板一枚分のパネルを作り、その上にダンボールを幾何学的に切り貼りし、更に、その表面に様々に手を加えてから、赤、黒、黄、青、灰、紫といった色をローラーで塗る、という手法で描かれた作品(まるで彫刻の様な絵)45枚。それを連ね合わせてバックスクリーンにするという発想。

 穐吉敏子(p)・ルー・タバキン(ts)・ピーター・ワシントン(b)・ケニー・ワシントン(ds)。4人の個性的な音が、まるでニューヨークの夜景の中にこだまする様な、はたまた見る人の心紋様が現れる様な、人々の感性に語りかける、抽象画群。

 「この時のコンサートを聴きに来てくれた人達の心に、音楽と絵が一緒になって、いつまでも残る様に」と、一枚一万円で即売し、喜ばれた。僕も数枚譲り受け、陸前高田の店の入り口や、店内の装飾に使ったものでした。

 又、現在「開運橋のジョニー」に飾ってある、穐吉さんの肖像画は、あの「シック・レディ」のジャケット写真を元に描かれたもので、ジャズドラマーとして活躍しながら、遠野市で看板業を営んでいた、故・菊池コージ(幸吉)さんの作品である。